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表:
上機嫌にザルに具を入れているナナをジョンは不思議そうに眺めている。
何故ならそれは一人分よりもとても量が多い。
彼女の普段の食生活は2日に1度食うか食わないか。
彼女曰く『これくらいが丁度良い。』のだそうだ。
「お。豪勢だねえ。誰かと食べるのか?」
鍋の準備をしているナナの背へ声をかけると元気の良い返事が返ってくる。
「今日はヒョーゴやファーヴニール、皆で鍋を食うのだ!」
あ、と声を続け振り返ると視線はジョンやカテリーナ、そしてdoll*dollへと向けられる。
「皆は来ないのか?」
doll*dollは元々流動食等そういったものを主食としているため真っ先に二つの頭を振るって見せた。
「私も遠慮するわ。
ダイエットしなくちゃね。」
カテリーナもいつもの眉を下げた笑みを浮かべ、ごめんなさいね、とつけたし謝罪した。
残ったジョンへと視線が送られるがジョンも申し訳がなさそうに口を開け。
「悪い、俺もちっと仕事が入ってるんで行けそうにないんだわ。
旦那も同じだと思うぞ。」
そういえば今日1日メイガスを見かけていない気がした。
ナナはつまらなさそうに「ふぅん」と答えるとザルに入れていた白菜の欠片を一口食べた。
裏:
その仕事を受けたのはつい最近の事だった。
人によっては長いというかもしれないけれど、自分にとっては短いのだ。
ある商会に居た小鳥が浚われてしまった、だが所在は確認できている。
なのでどのような状態なのか見てきて欲しいと。
多少なり賑わった街に小鳥は居るという。
その仕事を受けてきた片翼は所在を調べてくると言い残し消えてしまった。
適当な階段へと腰を落ち着け、道行く人を眺める現在に至る。
不意に泥棒という声と共に赤毛の子供が駆け抜けて行くのが見えた。
店主が怒りを露にして懇望を振り回しそれを追いかけていたが
よくよく見ればそれは片翼が追いかけていた少女だった。
あの怒り様は殴り殺してしまうんじゃないかとすら思える。
慌ててそれを追いかけた。
仲裁をするのも始めてというもので、青筋をたてる店主と怯えながらも威嚇をする小鳥の間に入りどうどうと手を上げてみせる。
だが所詮、金なのだ。
店主へと時間をとらせた分と彼女の盗んだ林檎1つ。
その金額を多めに握らせると、咳払いをして去っていった。
噴水広場の縁に腰掛、林檎を租借する小鳥を眺めている。
小鳥も林檎を租借しながら眺め返していた。
「金が無いから盗んだ…ねえ。」
「そこにあったんだ、盗まれても文句は言えないだろ。」
あまり褒められた行為ではないが、貧困民が居る都市では日常茶飯事。
特に小鳥の事情が事情で働けとは言いづらい。
余程空腹だったのか口の周りを蜜で汚し、美味そうに林檎を食べる様を見ていると自分まで食事をしたくなる。
丁度ホットドックが露店されそれを購入すると小鳥は興味心身にその匂いを嗅いでいる。
「食べたことないのか?」
「うん。肉の匂いがするぞ。」
何気なしに口元へとホットドックを寄越すと、何度か目を瞬いて見せた。
一応逡巡しているようでホットドックと自分を何度か視線を彷徨わせている。
しかし意を消したように一口と齧り付くとぶわりと赤毛の小さな翼が広がった。
それはもう驚いた時の猫のように。
そしてよく見ると齧り付いたままホットドックを食べ進もうとしていた。
「待て待て待て待て、そっから先はマスタードだ。」
あと少しでマスタードという所で頭を抑えてホットドックから引き剥がす。
今度は口の周りはケチャップまみれだった。
不服そうに小鳥は鳥の声で鳴いたが、片翼もそうだが種族的にあまりよくないらしい。
昔悪戯でタバスコジュースを片翼に飲ませた事があったが1週間ほど生死を彷徨ったほどだ。
何故か心境的に辛味は危険物という認識がある。
「暖かい肉だった、何から取れる肉なんだ?」
「こりゃ焼いてるんだ。普通の豚肉だろ。」
「焼くと美味くなるもんなのか?」
あまりにも無知すぎる質問。
ホットドックを食べかけていた手を止め、小鳥へと視線を移した。
「料理経験ってある?」
「リョーリケーケン?」
質問を復唱し首を傾げて見せる。
料理の「り」も知らないらしい。
「本に料理の仕方が書いてあるぞ。」
「文字読めないもん。」
思わず納得してしまう。こんな環境なら必然的に盗みに働いても仕方が無い話だ。
運がよければ牢へと入れられるが悪ければ酷い目にあっていただろう。
どうせ片翼が戻るのはまだ数日かかる話でもある。
一つ提案をする事にした。
「じゃあ料理の仕方教えてやるよ。」
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